はじめに

少子高齢化・労働人口減少による日本企業のビジネス環境は悪化しつつあり、経営課題もさらに深刻化していく傾向です。その課題を解決する経営戦略の中、BPOが最も重要なソリューションとして挙げられています。

BPOとは「Business Process Outsourcing(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」の略です。外部に業務を委託する=外注(アウトソーシング)の一種だという解釈もありますが、近年かなり進化しており、当初のアウトソーシングという色が薄くなって、今ではOptimization(最適化)の色が濃いと言えるぐらい企業の改善活動に欠かせないソリューションとなりました。

いくら認知度が高くなって来た活動とは言え、どのようにBPOプロジェクトを進めるべきか、特に実行判断の入口でどんな業務をBPO対象にすべきか悩んでいる方も大勢いるでしょう。

この文章ではBPO活動と対象業務について近年の変化と、BPO検討を進める中で比較的トラブルになりがちなところ及び対象業務の選別方法を説明します。分かりやすく説明するため、長年BPO関連仕事の中で実際に経験したリアルケースを例の形で紹介しながらBPO対象業務選びに失敗しないコツを説明いたします。

BPOの狙いの高度化と対象範囲の拡大

日本企業がBPOサービスを本格的に使い始めたのは2000年以降のことです。最初はやはりコスト削減が主な目的であり、人事、総務、経理のようなバックオフィス業務(コンタクトセンターと印刷センターのような専門サービスもBPOに属しますが、業務形態が特殊という理由でこの文章では触れておりません)を人件費単価が安い業者もしくはオフショアの拠点にアウトソーシングする進め方が多かったです。それから20年経った今は調達購買、営業支援、マーケティングなどの業務領域まで拡大され、コスト削減だけではなく業務効率化、DX推進、リソースをコア業務に集中させるなどBPO推進目的自体も高度化されました。

今まで関わった数多くのBPO活動を振り返って見ても推進の目的は割と最初からはっきりしており、お互い認識齟齬は発生しません。一方でBPO対象業務の選別については簡単そうに見えて、推進中の課題が噴出します。複数のBPOサービスを紹介しているホームページから「ノンコア業務はBPO対象だ」と書いているのが見かけますが、実案件になると簡単ではありません。ここで自分が経験したリアルなプロジェクトを紹介しながらもう少し「コア業務&ノンコア業務」の言葉について説明いたします。

BPO対象業務検討の時「コア業務&ノンコア業務」はNGワード

数年前、某日系企業(以下A社と略称)中国工場の間接業務BPOプロジェクトを提案から詳細調査、アカウントマネジメントまで担当しました。品質、性能、技術など製品についてマーケットから高く評価されているA社ですが、生産本部の経営層からは間接業務について潜在リスク意識を抱えていました。A社生産本部の方々と3ヶ月間に渡って課題深堀、解決方針策定などのディスカッションを繰り返し、いよいよ「工場間接業務効率化」が本格的に開始される方針が決まり、その重要な一環としてBPO導入が始まることになりました。

プロジェクトの目的は「間接業務効率化」が主で、「コスト削減」、「業務標準化」、「コンプライアンス強化」、「コア業務への集中」などもありました。さっそくプロジェクトチームが立ち上がり現場の詳細調査が始まりました。

調査対象は工場間接業務全般であり、総務部、人事部、経理部のようなバックオフィス部門と生産管理部、調達購買部、品質保証部、生産製造部も対象になりました。A社経営層の強力な支持から始まったプロジェクトでもあり、現場管理職の方々もかなりポジティブな姿勢で協力してくれました。上手く進んでいると思ったら、To-Be(BPO実施後)業務フロー設計の際に詳細BPO対象切り分けの議論で現場の方と弊社プロジェクトメンバーの間で意見分岐が起きてしまいました。

当時A社の工場は生産本部の傘下に所属され販売本部と分かれていました。販売本部からの需要予測と販売計画がシステム経由で工場に連携され、工場側は「供給任務優先」の体制でQCD(Quality品質、Costコスト、Delivery納期)全般がKPIとして設けられていました。図1は工場オペレーションイメージ図ですが、意見分岐で議論が止まったのは部品調達を担当している購買部でした。

図1

購買部は部品調達を担当していましたが、生産計画からMRP(Material Requirements Planning、資材所要量計画)が回され、そのままサプライヤー管理ツールに連携され、部品が自動発注されます。但し、長納期部品、課題部品のフォローアップと生産計画変更による納期調整などの作業が多く、購買部門が担当していました。部品供給の問題が起きた際、生産管理部、生産製造部、品質保証部の管理職を集め対策を決めるような緊急調整も購買部がリードしていました。

購買部とBPOした後の連携方法と対象業務について現場で議論している中「コア業務への集中」という話題に触れ、各自の意見を説明している流れで口論になり、ずっと協力的だった現場管理職の態度が豹変し「購買部の業務は生産ライン停止のリスクに関わる重要な業務で、全部コア業務つまりBPO対象外だ」と言うことになり議論が止まりました。A社工場の総経理(現地最高責任者)とプロジェクト責任者だった私までエスカレーションが上がったので、直接双方の現場担当者に事情を確認しました。経緯を整理して分かりましたが、「コア業務&ノンコア業務」の話になった際に弊社メンバーから「購買部の業務は直接利益を生まない業務なのでノンコア業務だ」と無意識に言ったことがどうやらA社現場担当者と管理職のプライドに傷つけたようで、会話がだんだん感情的になったそうです。すぐA社の総経理と私から購買部の方へプロジェクトの目的を説明する場を設けました。説明会の中、購買部担当者から「納期調整業務は生産ラインに関わるためコア業務だ」と主張していることについて賛同し、購買部業務の重要性について認識に違いが無かったことを理解してくれました。今回のプロジェクトは購買部門の仕事を「コア業務&ノンコア業務に分ける」ことが目的ではなく、如何にBPOという手段を使って間接業務全体の効率化を実現することが目的だと説明しました。その後も具体的な業務フローを持って複数回に渡り説明と検討を行い少し時間が掛かりましたが、やっと皆さんに理解していただき次のステップに進むことができました。

結果論になりますが、BPO対象業務を議論する時(特に現場の方と)に「コア業務&ノンコア業務」は使ってはいけないということでした。

何故「コア業務&ノンコア業務」はNGワードなのか?

コア業務とは一般的に企業の利益や売上を直接生み出す業務をさし、一方ノンコア業務はコア業務をサポートする業務を指します。一般的な定義として間違ってはいないですが、解釈は人それぞれです。下記の図2のように例を挙げて詳しく説明します。

図2

上記のように経営レベルではバックオフィス全体がノンコアに判断されますが、部門レベルまでブレークダウンすると経理部がコアになるし、さらに業務レベル(担当者)まで下がると経理部の中でノンコアだった決算業務の中に決算報告のような業務がコアになるわけです。つまり、判断する人の立場と対象レベルが違ければコア業務&ノンコア業務の分類結果も違うわけで、皆の認識を統一できないし、単純に「ノンコア業務はBPO対象だ」ということも通用しません。

また基準とは別の切口になりますが、調査の相手(特に現場の方)に「あなたの業務はノンコア業務だ」と伝えるのは、いくら伝え方に気を付けると言っても相手を傷つけることになります。仕事にプライド持っている経理部社員が「自分の業務は会社経営数字に関わる重要な仕事でありコア業務だ」と主張することを否定できないし、さらに言うと経営者の中に「うちの会社にノンコア業務は無い」と言い切る方もいらっしゃるでしょう。

「ノンコア業務だからBPO対象にする」と言うのは現場に誤解を与えます。

コア業務はBPO対象にしないと思う方が多くいますが、これも正しいと言い切れません。例えば、ソーシング業務は価格交渉も含めコア業務と判断しBPO対象にすべきではないと言いがちですが、そもそも価格交渉力(スキル)とベンチマークデータを活用するのがBPO取り組みの目的であれば対象になるわけです。要するにBPO目的に適する業務であればコアであってもBPO対象にすべきです。

BPO対象業務の選別方法は?

それではBPO対象業務はどのように選ぶべきでしょうか?

実はオペレーションと言われる全ての業務にBPOのオポチュニティが潜んでいます。BPOは会社経営と組織を良くするための手段(ソリューション)の一つであり、決して目的ではないことを常に覚えておくべきです。その前提で、私は大きく二つの軸で考えるべきだと思います。一つはBPO導入する取り組みの目的などクライアント立場で選別する軸であり、もう一つは実行アプローチとキャパシティなどBPOベンダー立場で選別する軸でございます。

分かりやすくするため複数のプロジェクトで起きたことを纏めておりますが、図3のような例を挙げて説明します。判断軸は「クライアント立場の判断軸」と「BPOベンダー立場の判断軸」の二つに分けております。それぞれの判断軸によって選んだBPO対象業務は以下の図3のようになります。

図3

(業務は例として一部のみ選択)

① 意見が合致する部分:

クライアント側とBPOベンダー側が共にBPO対象として判断した業務になります。こちらの業務は躊躇なくBPOスコープに入れて素早く実行プランを立てるなど次のステップに進めるべきです。それ以外の業務はどんな理由であるか再確認したうえで判断することになりますが、結果がこちらの業務と同じであれば同じ推進計画にするべきでしょう。

② クライアントはBPO対象⇔BPOベンダーはBPO対象外:

クライアントはBPO対象にしているが、BPOベンダーが対象から外しているので、BPOベンダーにその理由を確認すべきです。今回の例で言うと「人事_年末調整」は紙を扱うオンサイト作業がメインであったが、BPOベンダーがオフショアだけ提案していたため対象から外したのと、「購買_マスタ管理」は権限と承認プロセスが整理されておらず、判断基準が決まってないHighリスク業務と判断されたのが理由でした。双方で打ち合わせの結果、年末調整業務はBPOベンダーがオンサイトを入れた案で再度判断すること、マスタ管理業務はBPOの前にBPRを実施することになりました。

③ クライアントはBPO対象外⇔BPOベンダーはBPO対象:

クライアントがBPO対象から外しているので、今度はクライアントにその理由を確認すべきです。確認の結果「経理_入金業務」はクライアント側の入金プロセス整理含めた営業パフォーマンス管理標準化プロジェクトが既に走っていたのと、「購買_見積依頼」は当時サプライヤーポータルシステム導入の検討が始まっていました。入金業務は既に開始されたプロジェクトがあるため再度BPOのタイミングをはかることになりました。見積依頼業務はまだサプライヤーポータルシステムの導入が決まっていないこともあり、BPOベンダーからプロセス整理も含め導入支援を入れて提案し直しました。

上記の例は代表的な業務を挙げて説明しておりますが、実案件はもう少し複雑になるかもしれません。しかし幾ら状況が変わっても二つの判断軸は変わりません。自社の判断結果を持ってBPOベンダーとディスカッションを重ねながら進めば失敗しません。この文章では広げて説明しませんが、自社に合うBPOベンダーの選択も重要です。

 

FPTのBPOサービス

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